日影規制とは?押さえるべき7つポイントをわかりやすく解説

日影規制とは?押さえるべきポイントをわかりやすく解説

都市部の過密化によって日照紛争やその他都市環境を阻害する事態が随所に発生したことにより、1976年(昭和51年)に日影規制(ひかげきせい・にちえいきせい)が導入されました。

これは、建築基準法のひとつです。

日影規制とは?
日影の影響が大きい中高層建築物を規制対象とし、建築物が周囲に落とす日影の時間を制限して、日照条件の悪化を防ぐもの。

これによって間接的に建築物の高さなどの規模や配置を制限しています。

時間とともに変わる日影の基準や測定方法、敷地条件など、どのように考えれば良いのか知らないという方も多いと思います。

日影規制について押さえるべきポイントを見ていきましょう。

①日影規制の対象は用途地域と高さで決まる。種別を紹介

日影規制を受ける地域は、快適で健康的な暮らしを損なわないように、その目的から住居系の地域を中心として考えられています。

都市計画で定められている用途地域のうち、以下の10の用途が対象となっています。

用途地域とは?
土地を利用する目的によって、12種類に分ける規定。
  • 第1種低層住居専用地域
  • 第2種低層住居専用地域
  • 第1種中高層住居専用地域
  • 第2種中高層住居専用地域
  • 第1種住居地域
  • 第2種住居地域
  • 準住居地域
  • 近隣商業地域
  • 準工業地域
  • 市街化調整区域

規制対象となる建築物は、第1種低層住居専用地域では、「軒先の高さが7mを超える」または「地上3階以上の建築物」で、通常の木造2階建ての建築物は対象から除かれています。

また、他の該当地域では、「高さ10mを超える建築物」が規制対象となっており、通常4階以上の建築物がこれに該当します。

これをみてわかるように、日影の影響の大きい中高層建築物に限定して規制対象としています。

この他、対象の用途地域ではない商業地域内の建築物であっても、高さが10mを超える建築物は、他の規制区域に影を落とす場合、その地域の規制を受けます。

日影規制
画像元:株式会社プライム

日影規制は軒先高7mを超す、または3階建て以上の建物にかかる規制ですので、自分の家が日影規制の対象になるかどうかをまず確認する必要がありますね。

 

ですがそれだけではなく、土地を探す段階でも十分に注意が必要なのです。

 

それは、周囲に高い建物などがあった場合に、自分の土地が日影になってしまう可能性があるからです。

 

その地域の日影規制を詳しく知っておくことで、後々の日当たりに関するトラブルや「こんなはずじゃなかった」という後悔を防ぐことができます。

 

事前に自分の家を建てる土地や周辺をよく調査することが大切です。

②日影規制の審査基準と計算方法

日影規制の審査基準は、一年の中で一番日照時間が少なく、一年の中で最も太陽の南中高度が低くなり影が長くなる、冬至日の真太陽時で考えます。

南中高度とは

南中高度は、太陽が真南にきて一番高く上がったときの地平線との角度のことです。

これは緯度によっても違います。

<夏至・冬至・春分・秋分の南中高度の計算方法>

  • 夏至の南中高度(度)=90-(その場所の緯度)+ 23.4
  • 冬至の南中高度(度)=90-(その場所の緯度)-23.4
  • 春分・秋分の南中高度(度)=90-(その場所の緯度)

例えば高さ634mのスカイツリーは、緯度35.7度に位置するので、冬至の南中高度は90-35.7-23.4=30.9度となります。

その時のスカイツリーの影はなんと1,059mにもなるのです。

夏至の際の影は138mですので、7.6倍以上も影の長さが伸びることになるのです。

したがって冬至の日の一番長い影が重要になります。

冬至日の真太陽時について

冬至日の真太陽時とは、冬至日における現実の太陽の時角にもとづいた時刻のことで、標準時とは異なります。

太陽が真南に来たとき(これを南中時刻といいます)を正午として表す時刻法です。

一般にいう中央標準時(兵庫県明石市の南中時刻を12時とする時刻法であり、いわゆる時計の時刻)とは、ずれが生じます。

例えば東京の南中時刻は、明石市よりも20分早くなります。

日影規制は、年間で一番影が長くなる冬至日で考えるということを覚えておきましょう。

③日影規制の審査方法

審査は冬至日の真太陽時による、午前8時から午後4時まで(北海道においては、午前9時から午後3時まで)の間に測定します。

第1種・第2種低層住居専用地域内では平均地盤面より1.5m、その他の用途地域内では4mまたは6.5mのうち地方公共団体がその区域の土地利用の状況等を勘案して条例で指定する高さの水平面(測定面)に、敷地境界線からの距離が5mおよび10mの位置に対して条例で指定した時間以上日影となる部分がないかどうかを測定して判断します。

平均地盤面より1.5mというのは、だいたい通常の木造住宅の1階の窓の中心の高さです。

4mというのは、木造住宅の2階の窓の中心の高さ、6.5mは3階の窓の中心の高さを想定しています。

また、敷地境界線からの距離が5mおよび10mと2段階の規制になっているところもポイントです。

まず5mの範囲で建築物が直接隣地におよぼす影響を規制して、10mの範囲ではこれを超えて広がる日影や他の建物との複合日影を考慮して規制しているのです。

日影時刻等
画像元:富商不動産

第1種低層住居専用地域の説明図
画像元:船橋市HP 第1種低層住居専用地域の説明図

測定する上でのポイントは「平均地盤面からの高さ」が「1.5m」、「4m」などとなっているところです。
地面に落ちる影をそのまま測定するわけではありません。

 

これは実際に建物の中に影が入ってしまうかどうかを考慮して規制しているためです。

 

ですから、1階の窓を想定した1.5m、2階の窓を想定した4mを測定水平面としているのですね。

④敷地条件による違いに注意

日影規制には、敷地条件によって独自の基準が設けられています。

日影が規制の異なる区域にまたがる場合①

商業地域に建てる場合でもまったく日影規制を受けないわけではなく、建築物の高さが10mを超え、規制対象地域に影が落ちる場合には、規制の対象になります。

日影が規制の異なる区域にまたがる場合②

測定面または日影規制時間の異なる地域にまたがる日影は、それぞれの地域の規制を受けます。

敷地の内に2つ以上の建築物がある場合

敷地の内に2つ以上の建築物がある場合、それらを1つの建築物とみなして日影規制が適用されます。

たとえ日影規制がかからない高さの建物が別棟としてあっても、その建物も一緒に規制されるので注意が必要です。

建物が日影規制の異なる地域にまたがっている場合は、どちらか一方の地域に規制が設けられていれば、建物全体に適用されることになります。

 

また、建物が規制のない区域に建っていたとしても、その日影が規制区域にかかっている場合は、その区域の規制が適用されるのです。

 

自分が建てる場所の敷地条件や、敷地に対して設計する建物の位置、近隣の建物による日影の状況をよく確認しておくことが大切です。

⑤敷地条件による緩和を知ろう

敷地条件によっては規制が緩和される場合がありますので覚えておきましょう。

計画敷地が隣地よりも1m以上低い場合

建築物の敷地の平均地盤面が、日影が生じる隣地またはそれに連接する土地の地盤面(建築物がないときは平均地表面)より1m以上低い場合には、その建築物の敷地の平均地盤面は、隣地およびそれに連接する土地ごとに、隣地との高低差から1mを減じたものの1/2だけ高い位置にあるものとみなされます。

平均地盤面が隣地より1m以上低い場合
画像元:NA建築デザイン

敷地が道路、水面等に接している場合

建築物の敷地が道路、水面、線路敷などに接する場合のこれらに接する敷地境界線は、これらの幅の1/2だけ外側(つまり道路等の中心線)にあるものとみなして日影規制を適用します。

ただし、その幅が10mを超えるときは、その反対側の敷地境界線から敷地側に水平距離5mの線を敷地境界線とみなします。

敷地が道路、水面等に接している場合
画像元:不動産売却プランナー

許可による制限の緩和

特定行政庁が、土地の状況等により周囲の居住環境を害するおそれがないと認めて、建築審査会の同意を得て許可した場合には、日影規制が解除されます。

〇隣地斜線制限や道路斜線制限では緩和される、公園や広場などは、日影規制では緩和対象にならないので注意しましょう。

敷地が道路・水面などに接していたり、隣地との高低差が1m以上あれば、日影規制が緩和されますので、敷地を活かした建物のプランを考えるとよいですね。

 

たとえば、高低差があるからと盛り土をして高低差をなくすと、大変な工事費用がかかるうえに、盛り土をした部分はどうしても地盤が弱くなってしまいます。

 

スキップフロアなど高低差を活かしたプランで、日影規制の緩和も受けることができることを検討してみるとよいでしょう。

⑥北側斜線制限と関係する部分

日影規制と関係がある北側斜線制限の部分について解説しましょう。

北側斜線制限は、北側隣地の日照を確保するために、北側隣地境界線(または北側全面道路の反対側の境界線)からの斜線により建築物の高さを制限するものです。

ただ、これには「日影規制対象区域は適用除外」という緩和があります。

第1種・第2種中高層住居専用地域の日影規制対象区域は、北側斜線制限の適用を除外されますので、覚えておきましょう。

⑦敷地北側に道路等がある場合

敷地が道路等に接する場合の緩和において、道路等の幅が10mを超える場合には、その道路の反対側の境界線からその敷地側への水平距離が5mの線を敷地境界線とみなすことになっています。

ですが、この解釈の仕方には、

  • 閉鎖方式」・・安全の緩和ともいわれていて、敷地境界線の周りに円を描いたように規制ラインを設定するもの。
  • 発散方式」・・道路等の範囲内に生ずる日影は規制対象から除外するという基本的な考え方から、敷地の角の点から放射状に発散方向が設定される。

という2種類の方式があります。

発散方式を使ってみなし境界線を求めると、敷地の直面する道路内の部分から両サイドに延び、次第に道路の反対側の境界線に近づいていく形状になります。

また、5m、10mラインの設定も発散方向に沿って水平に測るので、5mラインは、

  • 道路幅員が10mを超える場合は、道路の反対側の境界線と一致
  • 道路幅員が10m以下の場合では、発散方向による幅が10mを超える位置からは、道路の反対側の境界線と一致

することになります。

発散方式を使うと10mラインの両サイドの制限が大幅に緩和されるので、高層建築物でも敷地の東西に空地を確保する必要がなくなる場合もあります。

そのため、発散方式を採用していない特定行政庁もあるので、事前に確認が必要になります。



画像元:Yahoo!知恵袋

日影は北方向にできるため、北側に道路があると大きな建物を建てる場合に有利になります。

 

南北に長い土地は日影には有利になり、北側隣地境界線から建物を離して建てると、比較的高い建物も建てられるケースが多くなります。

 

逆に、東西方向に敷地が長い場合は日影規制の影響を受けやすくなりますので、土地選びの際にも参考にしてください。

まとめ

ある建物のために、一日中日照がない場所が少なくすむように、健康で快適な住まいを守るために、日影規制は欠かせないものです。

住宅を建てる際には、必ず確認するものですので、自分が建てる用途地域はどこなのか、建てられる高さなど規制はどのようなものかをよく理解しておきましょう。

また、土地選びの段階でも、周辺の敷地、特に南側に将来どんな建物が建つ可能性があるのかを確認し、自分の敷地内にどのような影が落ちる可能性があるのかを検討しましょう。

そして、何より後悔しない家づくりをすることが大切になります。