普段、なにげなく登っている階段。特に意識していない方も多いのではないでしょうか。
しかし、車椅子の方やベビーカーを押すお母さんにとっては、日常生活の大きな障がいになってしまうのです。
家づくりにおいても、できるだけ長く快適に暮らしていける住宅にするために、高齢になっても安心・安全な住まいにしたいですよね。
そのためには、バリアフリーな設計にしておくことはとても大切なのです。
今回はバリアフリー住宅設計の基本の1つ、「床段差の解消」をテーマにスロープの作り方の要点を解説します。
住宅改修の際の参考にもどうぞ。
この記事の目次
バリアフリーの基準
車椅子の方が、介助者の手を借りることなく上り下りするためにはいったいどのくらいのスロープ勾配とすればよいのでしょうか。
住宅の場合は適合させる義務はありませんが、目安の参考になる文書として、2006年に施行されたバリアフリー法の中に建築物移動等円滑化基準というものがあります。
なんだか難しい名前なのですが、要するに多くの人が利用する、学校・保育所・共同住宅や、主に高齢者や障害者等が利用する病院や老人ホームといった建築物において、廊下や階段、スロープやトイレ等あらゆる部分に対して一定の寸法・色・仕上げ材などのルールを設定しているものです。
これは建築物の用途や規模によって、必ず適合させなければならない「義務基準」と、そうではない「努力義務」に分かれており、必要に応じた措置が定められています。
一方で、世の中には自走できないスロープやそもそもスロープがない建物も今でもたくさんあります。
それはなぜかというと、この法律ができる前にできた建築物に対してはこの義務は適用されないからです。
車椅子ユーザーやベビーカーを利用されている方がいかに不便か、実際に体験してみないと分からないものですが、困っている人を見かけたら積極的に声をかけられるようにしたいですね。
自走できる目安は1/12
まず、スロープの勾配の定義について理解しておきましょう。
スロープの勾配は、一般に分数を使って表します。
バリアフリー法に定められている基準において、スロープの勾配は1/12以下とすることとあります。
※高さが16cm以下であれば1/8以下とする
※高さが75cmを超える場合は高さ75cm以内ごとに奥行き150cm以上の踊り場を設ける
たとえば、自宅の駐車場から玄関までの段差が50cmの場合、1/12の勾配で段差を解消するためには6mの距離が必要になります。
3間が5.46mなので、それよりも距離が必要ということですね。
6mというと、大型車の全長以上。
思ったよりスペースが必要だと感じる方も多いのではないでしょうか。
しかし、一見ゆるやかな勾配に見えても、実際に車椅子に乗ってみると案外きついというのはよくあります。
安易に勾配を設定せず、利用者目線で安全に使用できるよう配慮しなければなりません。
車椅子が上り下りできるスロープ勾配の限界
車椅子が上り下りできるスロープ勾配の限界とはいったいどのくらいなのでしょうか。
「上り下り」といっても自走の場合と介助者に押してもらう場合があります。
自走の場合は5°程度、つまり1/12程度の勾配が、普段から車椅子を使用していて体力のある方なら自走可能な限度と考えられます。
1/8勾配になると、介助者に押してもらっての上り下りは可能ですが、自走しようとすると途中で力尽きて勢いよく後退し、ひっくり返って頭を打つ可能性があり大変危険です。
また、介助してもらってスロープを下る際は前向きで降るのではなく、介助者が坂の下側から支える形で後方に注意しながら後ろ向きで一歩ずつゆっくり下るようにします。
車椅子の通れる幅 最小寸法は?
スロープを適切な勾配で設計するためには、一定の距離を確保しなければならないことが分かりました。
同時に、車椅子の通ることができるよう適切な幅の設計も大切です。
車椅子の横幅やサイズはJISで決まっており、規格によると幅700mm以下となっています。
そこから左右に余裕を持たせ、手すり等も設置することを考えると
おおよそ1mは確保したいところです。
スロープを作れない場合の段差解消方法
道路や駐車場から玄関ポーチまで距離を取れる場合は、スロープを作ることを推奨しますが、スペースが確保できない場合や予算の都合で工事ができない等スロープを設置することが難しい場合もあると思います。
そんな時の対処法を紹介します。
①段差解消機を使う
引用元:段差解消機(新光産業)
スロープを設置するスペースはないけれど、どうにか段差を解消したい場合、段差解消機がおすすめです。
段差解消機とは、電動でカゴが上下する昇降装置で、車椅子に乗ったまま安全に段差解消を行うことができる機械です。
スロープを作るよりもはるかに省スペースとすることが可能になります。
引用元:タスカル
価格は、高低差やタイプによりますがおおよそ50万円〜。
玄関内に設置して住居内との段差を解消するものや、室内階段に設置しバリアフリー化できるもの、部屋の窓から直接外に出られるように外に設置するものなど、様々なタイプがあり、100Vの電源が取れれば動作可能のようです。
屋外に設置する場合は、機械本体を地面に埋め込む「ピット工事」を行うことで乗り込む際の段差をなくし、つまずき等を防止することができます。
また、高低差が大きい場合は振れ止め工事が必要になる場合もありますので、まずは見積もりをお願いするのが良いかもしれません。
②ポータブル型のスロープを使う
引用元:段差解消プロ
数段の低い段差には、ポータブルで収納性に優れた持ち運びもできるスロープを使用する手もあります。
引用元:段差解消プロ
こちらは難しい操作を必要としないので操作が簡単であり、工事が不要なので改修等を行うことなく段差を解消することができます。
価格は、ロールの長さによりますが約6万円〜と経済的にもメリットとなります。
しかしながら、介助者が車椅子を押すことが前提であり、自走したい場合や使用頻度が高い場合、高低差が大きい場合には適していません。
一時的な車椅子の上り下りには使用できるものの、できるだけスロープを作れるよう設計上の工夫をしたいところです。
③人の手を使う
最終手段は、人の手を使って段差を乗り越えることです。
軽い車椅子で、介助者に体力がある場合、そして段差が1段・2段程度であれば、前向きでキャスターを上段に持ち上げて乗せ、段差に押し付けながらゆっくりと車椅子全体を上段に上げることで乗り越えることができるでしょう。
しかし、年をとると介助者も車椅子を持ち上げる体力がなくなってきます。
今は大丈夫であっても、早めの改修や対策を考えておくことが怪我の防止につながります。
まとめ
長く住み続けれられる住宅にするためには、将来についてもいろいろとシミュレーションした上で設計していくことが大切です。
バリアフリーにおいても、家族構成や予算に合わせて様々な方法を検討しましょう。
玄関やポーチ部分は段差の多い部分であり、適切に設計しなければ、高齢者だけでなく小さな子供にとっても大きな事故につながる大変危険な場所です。
今は大丈夫だからと段差をそのままにしたり、無理なスロープ勾配で設計したりせず、
なるべくゆとりのあるゆるやかな寸法でスロープが作れるように、建物の設計や外構計画を工夫していきましょう。