「第一種低層住居専用地域」などの用途地域には、他に「第一種住居地域」、「近隣商業地域」、「工業地域」などがあり、用途地域ごと、建てられる建物の種類や面積・高さが決まっています。
「第一種低層住居専用地域」は、高さの低い住宅の住みやすい環境を守るために定められている地域です。
第一種低層住居専用地域の規制やメリット・デメリットを知って、後悔のない家を建てられるようにしましょう。
この記事の目次
第一種低層住居専用地域とは
第一種低層住居専用地域は、住宅地として良い環境が守られるように規制が定められている地域です。
実際にその地域を見てみると高さの高い住宅はなく、それぞれの敷地も広々しています。
また、騒音や匂いなどが心配される工場や大きな商業施設もありません。
第一種低層住居専用地域が住宅地として良い環境が守られているのは、都市計画法や建築基準法で建ペイ率や容積率、高さ制限、建てられる建物の種類が決まっているからです。
これから家を建てようとする土地の用途地域は、各区市町村の都市計画関係課で知ることができます。
不動産会社や住宅会社は詳しく知っていますので、教えてもらうとよいでしょう。
法律で規制されている建ペイ率や容積率、高さ制限、建物の種類の規制を詳しく解説します。
第一種低層住居専用地域の建ペイ率
建ペイ率は建築基準法第53条で定められていて、「建築面積の敷地面積に対する割合」をいいます。
建築面積は、建築物(住宅)がどれだけ敷地をおおっているか表す面積で、建ペイ率は下記の計算式で計算されます。
〇建ペイ率=(建築面積/敷地面積)×100
第一種低層住居専用地域の建ペイ率の限度は、建築基準法第53条で30%~60%の範囲で決められています。
この範囲の中から、都市計画法で土地ごとに適用される数値が決まります。
都市計画で第一種低層住居専用地域の建ペイ率として指定される数値は、40%または50%が多くみられます。
第一種低層住居専用地域の容積率
容積率は建築基準法第52条1項、2項で定められていて、「延べ面積の敷地面積に対する割合」をいいます。
延べ面積は、建築物(住宅)の各階床面積の合計をあらわす面積で、容積率は下記の計算式で計算されます。
〇容積率=(延べ面積/敷地面積)×100
第一種低層住居専用地域の容積率の限度は、都市計画によって定められた「指定容積率」又は、敷地前面道路の幅員(道路幅)12m未満の道路の幅員により指定された「道路容積率」を比較していずれか低い数値が採用されます。
(例)敷地前面道路の幅員が6m、第一種低層住居専用地域の場合
- 都市計画で指定された容積率・・・・80%A
- 道路幅員よる道路指定容積率・・・・道路幅員6m×4/10(建築基準法指定数値)×100%=240%B
BよりAの数値が低いため、容積率は80%が限度となります。
第一種低層住居専用地域の都市計画で指定される容積率の限度は、建築基準法第52条で50%、60%、80%、100%、120%、150%と決められています。
この数値の中から、都市計画法で定める数値が決まります。
第一種低層住居専用地域の容積率として指定される数値は、50%または60%、80%が多くみられます。
第一種低層住居専用地域の高さ制限
第一種低層住居専用地域は、高さの高い建物は建てられない地域として制限されています。
そのため、建築基準法で高さ制限の規定が設けられ、10~12mまでという高さ制限と道路斜線制限及び北側斜線制限の検討が必要です。
また、ある一定以上の高さになると、日影規制により高さが制限されます。
第一種低層住居専用地域で3階建ての住宅を建てるの場合は、特に高さをクリアできるか検討かが必要です。
道路斜線制限とは
道路斜線制限は、建築基準法第56条1項1号で規定されています。
敷地前面道路の反対側境界線からの斜線勾配に応じて高さが制限されます。
第一種低層住居専用地域の斜線勾配は、1.25または1.5のどちらかが採用されています。
下記の図のように道路からの斜線勾配にかからないように建築物(住宅)の高さが制限されます。
北側斜線制限とは
北側斜線制限は、建築基準法第56条1項3号で規定されています。
北側隣地の日照を確保するために規定されている高さ制限です。
自己敷地から考えると、隣地住宅の北側は高さは高くならないため、自己敷地南面に日影ができる時間が短くなり日当たりの良い住宅になります。
真北の境界線で5mの高さに建物の隣地からの距離(L)の1.25の斜線勾配を適用します。
下記の図のように真北の斜線勾配にかからないように建築物(住宅)の高さが制限されます。
第一種低層住居専用地域の日影規制
日影規制は建築基準法第56条の2で規定されています。建築物周囲の日照を確保するために規定されている高さ制限です。
高い建築物は、敷地周辺に日影をつくり周囲の日照をいちじるしく減少させます。
そのため、高い建築物は、事前に日影の影響を検討しなければならないとされています。
第一種低層住居専用地域では、軒高さが7mを超える建築物又は地上3階以上の建物に日影規制があり、事前に決められた時間以上の日照が確保できるように検討を行わなければなりません。
第一種低層住居専用地域の制限される建築物
第一種低層住居専用地域では静かな住環境に住宅が建つ地域として、建てられる建築物の種類に制限があります。
住宅や住宅と店舗(菓子店やパン屋など日常必要な店)、住宅と事務所が一緒になった住宅(=併用住宅)は建てられますが、事務所だけ店舗だけの建物は建築することができません。
他にも工場や危険物を扱う店舗は建てられません。また、診療所は建てられますが病院は建てられません。
第一種低層住居専用地域は、このように建てられる建築物の制限が非常に厳しい地域です。
第一種低層住居専用地域のメリット
第一種低層住居専用地域は、ほかの用途地域と比較すると厳しい建ペイ率、容積率、高さ制限が定められ、建てられない建築物の規定も厳しいものがあります。
この厳しい規定があるため、高層マンションや大規模な商業施設、敷地に余裕のない住宅などが建てられることがありません。第一種低層住居専用地域のメリットをまとめました。
メリット1:日当たりの良い家が建てられる
第一種低層住居専用地域は地域全体が広い敷地に低層の家が建てられています。
また、高い建物がない、敷地いっぱいに建物が建たないため、自分の敷地が周囲の建物により日影になることが少なく、日当たりの良い家が建てられます。
メリット2:家の周囲は静かな住環境
大きな商業施設や工場、大きな原動機を使用する店舗は第一種低層住居専用地域には建てられません。
そのため、地域全体が静かな住宅地として良い環境が保たれています。
メリット3:将来にわたり良い住環境が保障される
日当たりの良い、閑静な住宅街となる第一種低層住居専用地域は、大きな商業施設や騒音が発生する工場、高層マンションが建築されることがありません。
そのため、将来にわたって今の住環境が保障されます。
静かな環境の中、明るい庭付きの家で暮らしたい場合、最も良い地域といえます。
メリット4:土地の価格変動が起こりにくい土地
第一種低層住居専用地域は住宅地として評価の高い土地です。
また、地域内に商業施設や工場が近くにできる心配がないため、周囲の状況により土地の価値が左右されることが少ない土地です。
長期にわたり価格変動が起こりにくく、住宅地として利用価値が高い土地といえます。
第一種低層住居専用地域のデメリット
第一種低層住居専用地域の厳しい規制は、良好な住環境を作りますが反面建てる家や購入する土地、土地の利便性にデメリットがあります。
デメリット1:広い住宅や増築がむずかしい
第一種低層住居専用地域は、ほかの地域と比較すると厳しい建ペイ率、容積率となっているため、同じ土地の広さでも建てられる家の広さが狭くなります。
また、高さの制限も厳しいため、増築したい、2階を広くしたいと思っても、建ペイ率や容積率、高さ制限で増築ができないケースがあります。
デメリット2:土地代が高くなる
建ペイ率と容積率の制限が厳しいため、一定の延べ面積の家を建てる場合他の用途地域と比較すると広い土地面積が必要になります。
第一種低層住居専用地域の容積率が60%の場合、延べ面積50坪の家を建てる場合の土地面積は83.34坪以上の広さが必要になります。
容積率が200%の場合は、土地面積25坪あれば建てられることになります。(※建ペイ率は考慮していない計算です)
このことからもわかるように、第一種低層住居専用地域は広い土地が必要になるので、必要な土地の広さに注意が必要です。
デメリット3:買い物の利便性が低い場合がある
大きな商業施設がない第一種低層住居専用地域は静かな住環境が約束されている地域ですが、反面近くに買い物をする場所が少ないため利便性が低くなるケースがあります。
昔ながらの商店街や隣接地域の近い場所に大型商業施設があれば買い物の利便性が良くなるので、周辺の施設環境を確かめておく必要があります。
デメリット4:学校が近くにある場合も少ない
第一種低層住居専用地域内には、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校を建てられますが、建物の高さ制限があるため、実際は保育園や幼稚園があっても小学校、中学校、高校はあまり近くにないケースが多いのが現状です。
学校の場所や通学経路など確かめておくと安心です。
デメリット5:将来計画に注意が必要
第一種低層住居専用地域は事業向きの用途地域ではありません。将来何かしらの事業を行いたい場合は、事業を営める土地であるか事前に確認が必要です。
事務所、店舗の場合は事務所併用住宅、店舗併用住宅の場合建築可能です。事務所、店舗の面積は、延べ面積の1/2以下かつ50㎡未満でなくてはなりません。
また、店舗の場合は用途(店舗の種類)にも制限があるため、食堂や喫茶店、クリーニング取次店など日常生活にかかわる店舗、飲食店などは建築可能ですが、大きな原動機を使用する場合は建築できません。
将来、事務所や店舗を計画されている場合は事前に建てられるか、面積は大丈夫か確認しておきましょう。
建てられる住宅と建てられない建物の具体例
第一種低層住居専用地域に建物を建てる計画がある場合、建物の用途や階数に注意が必要です。
3階建ては建てられるのか?
第一種低層住居専用地域でも3階建てを建てることができます。しかし、広い敷地または敷地周囲に幅の広い道路が必要になります。
3階建てを建てるには、容積率と道路斜線、北側斜線、日影制限をクリアしなければなりません。
容積率が低かった場合、各階の面積を小さくしなくては容積率をクリアできません。
また、3階建ての場合軒高さが7mを超えるため日影規制の検討が必須になります。
周囲の敷地に一定の日照時間を確保できる高さに家全体の高さを抑えなければなりません。高度な住宅プランニング技術が必要になります。
店舗併用住宅はどんな住宅でも建てられるのか?
店舗併用住宅は日常的に必要な店舗の場合建築可能です。しかし、床面積と原動機の大きさに注意が必要です。
床面積は50㎡以下及び住宅部分の床面積の1/2未満でなければいけませんし、原動機の出力の合計が0.75kw以下でなくてはなりません。
建築できる兼用住宅は建築基準法施行令130条の3に定められています。
(抜粋:建築基準法施行令第130条の3)
1号 | 事務所 |
---|---|
2号 | 日用品の販売を主たる目的とする店舗又は食堂若しくは喫茶店 |
3号 | 理髪店、美容院、クリーニング取次店、質屋、貸衣装屋、貸本屋 |
4号 | 洋服店、畳店、建具店、自転車店、家庭電器具店 |
5号 | 自家販売のために食品製造を営むパン屋、米屋、豆腐屋、菓子店 |
6号 | 学習塾、華道教室、囲碁教室 |
7号 | 美術品又は工芸品を制作するためのアトリエ又は工房 |
工場は建てられるのか?
第一種低層住居専用地域に工場は基本建てられません。しかし、店舗併用住宅に該当する場合は建てられるケースがあります。
作業用途や工場部分の面積、危険物の取扱いによっては「店舗併用住宅」に該当して建築が可能になる場合があります。
倉庫は建てられるのか?
第一種低層住居専用地域に倉庫業としての倉庫は建てられません。しかし、住宅の付属建築物である倉庫は可能です。
ただし、住宅のための倉庫として認められる必要があります。
倉庫のほうが住宅より床面積が大きかったり、保管するものが危険物である場合は認められないケースがあります。
建築許可申請業務を行っている特定行政庁(各区市町村の担当課)又は指定確認検査機関に事前に確認するとよいでしょう。
第一種低層住居専用地域に家を建てる時には、厳しい規制があることをまず理解し、現地を見ながら住環境の良さや暮らしの利便性を確認した上で建築計画を進めるようにしましょう。
また、不動産や建築の専門家に相談して、厳しい規制をクリアできるプランを提案してもらい建築可能な住宅を検討するとさらに良いでしょう。