今、住宅業界で左官工事が注目されているのをご存知でしょうか?
左官の歴史は古く、飛鳥時代以前から存在しており、世界最古の木造建築である法隆寺にも用いられています。
そんな伝統的な左官工事について、ここでは、
- 種類
- メリット、デメリット
- 主な施工場所
- 工事単価
などを紹介しながら、今の時代だからこそ見直されている理由を紹介します。
この記事の目次
そもそも左官工事ってなに?
左官とは、石灰や土、砂等に水分を含ませた材料が固まる前に、コテなどの道具を駆使して壁や床に塗る技術のことです。
『左官』と言えば、使用される材料や職人さんやその技術のことを指し、『左官工事』と言えば、左官を用いて壁や床など施工することを指します。
そんな伝統的な施工法である左官が現代で注目されているのは、使用される左官材料に自然素材が使われていることにあります。
現代病であるシックハウス症候群やアレルギーなどは化学物質が原因とされています。
そんな中で、昔から使われていた自然素材の壁や床が見直され、それと共に左官工事も注目されることとなりました。
また、左官工事は自然素材だけでなく、熟練の技術も評価されています。
水面のようにフラットな壁面も、複雑な模様も、道具一つでいかようにでも仕上げる職人技。
そういった繊細な仕事でもあることから、現在では女性の職人さんも増えてきています。
左官材料の種類
漆喰
抗菌、消臭効果に優れ、燃えにくい素材であるのも特徴です。漆喰の最大の魅力は調湿性にあります。
漆喰の表面にある無数の孔が空気を吸って吐きます。壁が呼吸するというイメージで考えてください。
漆喰はホルムアルデヒドを吸着して分解すると報告されています。
漆喰は石灰石を粉砕して焼成した消石灰が主な原料になります。主成分は水酸化カルシウムと炭酸カルシウムです。
原料の消石灰に、凝固剤としての「すさ」、「海藻のり」などを混ぜてつくります。
家族にアレルギーがあるなど、すべてを自然素材にする必要がある場合は、固める凝固材(接着剤)に注意しなければなりません。
凝固剤に化学物質が含まれていれば、いくら自然の素材を使っていても無駄になってしまいます。
漆喰は真っ白なのでコテの仕上げによる模様の陰影が際立ちます。
下記にある写真のように同じ材料を使っていても、フラットな仕上げとコテの模様を残す仕上げでがらっと印象が変わります。
珪藻土
藻類などの植物性プランクトンの化石が堆積してできたものです。
漆喰と同じような特徴がありますが、漆喰より安価で、施工もしやすいのが魅力です。
その上、湿気を吸う力も漆喰より大きいので、今の内装左官の主流は珪藻土になっています。
ただ、漆喰よりも調湿性はかなり低くなります。それと、粉塵の被害が報告されているので、珪藻土の性質をよく確認したほうが良いでしょう。
漆喰と同じく、素材だけでなく、凝固剤の成分で化学物質使用の有無に注意が必要です。
じゅらく(聚楽)
元々は京都の聚楽第(じゅらくだい)付近の土を使っていたことから、じゅらく壁と呼ばれるようになった土壁のことです。
キメの細かい砂と土が特徴です。今は他の地域で採掘された土でも、仕上げが同じであればじゅらくとされています。
珪藻土や漆喰同様、自然素材としての効果だけでなく、耐火性能が高いことも特徴です。
引用:iemiru
モルタル
モルタルはセメントに砂と水を混ぜたもので、建物の基礎に使用するなど住宅業界ではお馴染みの材料です。
壁だけでなく、床にも多く使われます。モルタル仕上げはコテの押さえ方のパターンで、無機質になったり温かみが出たりと印象が変わります。
わざと塗りムラやクラックを作ってヴィンテージ風に仕上げるなど、店舗デザインのアクセントとして使われることも。
カラーバリエーションも豊富で、他の左官材料より用途の幅が広いのも特徴の一つです。
左官工事のメリット、デメリット
自然素材や熟練の職人技など良いことずくめにも思える左官工事ですが、やはりメリットだけでなく、デメリットもあります。
メリット
左官の場合、他の材料で代替できないメリットが多いです。これこそが最大のメリットと言えます。
決して汎用的ではありませんが、だからこそ個性や独創性を重視する方にもおすすめできます。
メリット①:自然素材を使用している
メリットは上記で紹介した通り、自然素材を使用するので、化学物質の心配がありません。
よく使われるクロス壁紙は、素材や接着剤などに化学物質が含まれていることが多いです。
しかし、珪藻土や漆喰の塗り壁であれば、自然素材なのでその心配はいりません。
漆喰の表面には無数の小さな孔があり、壁自らが呼吸をします。そのため、調湿性と断熱性に優れ、部屋の空気を清浄に保つこともできます。
昨今の地球温暖化の影響もあり、夏は涼しく冬は温かいという左官の壁が今こそ見直されているのです。
メリット②:デザイン性に優れている
壁を仕上げる道具の使い分けによって、いろんな壁のパターンを選べるのも魅力の一つです。
コテで塗った跡を自然な形で残す『コテ波仕上げ』など、人工的なクロス壁紙にはない風合いが楽しめます。
今は珪藻土や漆喰を取り扱うメーカーも増えており、カラーバリエーションも多くあります。
様々なコテの技術と豊富なカラーを組み合わせれば、デザインは無限大です。
引用:アトピッコハウス
デメリット
デメリットはメリットの時に書いた『汎用的ではない』ということが主な要因です。
一般的に使用される材料や技術ではないことによる弊害が多くなります。
デメリット①:予算が高くかかる。
左官の一番のデメリットは費用です。
例をあげると、壁面の内装工事であれば、珪藻土はクロス壁紙のおよそ2倍、漆喰ならばおよそ4倍にもなります。
珪藻土よりも漆喰のほうが材料費が高くなります。
では、お馴染みの材料であるモルタルならば安くできるかといえば、そうでもありません。
左官工事で一番かかるのは手間代です。それが職人の持つ技術への対価になります。
デメリット②:職人によって技量の差が出やすい
そして、そういった技術の難しい工事は、職人の技量で仕上げが左右されます。
経験年数が少なかったり、技量が少ない職人に当たると、不満が残る結果になる可能性もある訳です。
では、職人の技量をどうやって見極めればいいかと言えば、一般ユーザーには難しいところです。
施工前から業者とよくコミュニケーションを取って、今までの施工歴や職人歴などを聞いて判断するのがいいでしょう。
不満が残った場合のアフターケアを保証してもらう契約を結んでおくのも一つの方法です。
デメリット③:法的に使用できる場合とできない場合もある
左官に使われる材料は燃えにくいものが多いのですが、耐火基準を満たしていないものもあります。
防災地域などで木造住宅でも準耐火建築物にしなければいけない場合、基準を満たした工法でないと建築確認申請が通らない可能性があるのでご注意を。
左官の主な施工場所
ここからは左官を使用する主な場所を紹介します。
内装
自然素材である漆喰や珪藻土を使えば、シックハウス症候群の心配はありません。
漆喰には有害物質であるホルモアルデヒドを吸着して分解する作用があるという説があります。
抗菌性、調湿性、抗菌、消臭など、部屋の空気にとって良いことづくめです。人やペットに優しい家づくりができます。
クロス壁紙よりもメンテナンスが大変そうなイメージですが、お掃除の仕方さえ間違わなければそんなに難しくありません。
手垢などの汚れが目立ってきても、消しゴムやサンドペーパーでこすれば落ちます。
ひびが入ったりしても、職人による部分補修も可能なので安心ですね。
外装
最近はサイディングやタイル、塗装が主流ですが、昔の外壁はほとんどが左官でした。
外壁を左官で施工するメリットは、個性的な模様にできたり、複雑な形状の建物でも継ぎ目なく仕上げられることです。
じゅらく壁は昔ながらの風合いもありながら、モダンな印象を与えられます。燃えにくい素材であるというのも魅力ですね。
デメリットはひび割れがしやすいことと、メンテナンスに注意が必要です。
左官の外壁に高圧洗浄機などを使うとひび割れの原因になります。
汚れた場合は、内装壁同様、サンドペーパーなどで優しく削ると取れやすいです。
外構(エクステリア)
住宅の外回りである外構部分にも左官工事は使われます。
モルタルの床工事は左官工事の基本とされています。
外構ではモルタルだけでなく、人造大理石の洗い出しも多く使われます。
洗い出しとは御影石や大理石などの砕石にセメントを混ぜたものを塗り、完全に固まる前に水洗いをして石の粒を浮き上がらせる工法です。
床だけでなく、腰壁などデザイン的な用途としても人気があります。
住宅の目隠しとなる塀にも左官は使われます。
日本家屋や寺院に使われている昔ながらの土塀だけでなく、今は組み積みされたコンクリートブロックの仕上げにも利用されます。
玄関の目隠しなど住宅の顔となる部分で、色んなカラーや模様で仕上げることができる左官は重宝されています。
店舗
最近は店舗に左官を使うことが増えてきています。
個性的な模様で仕上げができることなど、デザイン的な自由度が高い点が大きいです。
複雑な形状でも継ぎ目がないので仕上がりが綺麗なのも魅力ですよね。そんなこともあり、家具の仕上げに左官を使うことがあります。
左官材料の素材やカラーのバリエーションが増えていることで、和風、洋風と様々なデザインに対応できることも、左官が増えている理由の一つです。
引用:平城左官
左官工事の費用
デメリットの項目でも書きましたが、左官工事はコストがかなり割高になります。
内装壁なら、クロス壁紙の2~4倍はかかります。
漆喰 | 1㎡あたり4000円(材料手間共) |
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珪藻土 | 1㎡あたり2000円(材料手間共) |
クロス | 1㎡あたり1000円(材料手間共) |
漆喰を例にあげると、材料、手間共で1㎡あたり約4000円ほどかかります。
クロスより4倍も高くなります。比較的コストの安い珪藻土でも2倍です。
より高級な素材を使用したり、熟練の職人さんの施工であればもっと高くなる場合もあります。
ただ、施工費用が高くても、左官工事をするメリットは大きいです。
クロスより4倍高くても、漆喰を使用した室内であれば、調湿性や断熱性に優れており、冷暖房の光熱費が抑えられます。
湿気の無い快適な空間であれば、カビが発生しにくく住人の健康も保てます。
柱や床なども傷みにくく、家を長く維持することができます。
つまり、自然素材を使った左官なら、住宅のランニングコストを抑えられるという訳です。
中長期的に考えれば、コストダウンに繋がることになります。
住宅と家族の健康を長く維持するための初期投資だと思えば、左官工事の費用はそれほど高く感じないのではないでしょうか。
まとめ
発展を続ける現代社会において、古き良き文化が見直されることはよくあります。
左官工事もその中の一つですが、その素材や技術は日進月歩で進化しています。
そんな伝統と最先端の融合が左官の最大の魅力ではないでしょうか。