パッシブハウスには外観にいくつかの特徴があります。
自然と共存していくために風や太陽の動きなどを研究し、建築場所の環境を考慮しながら設計するため、パッシブハウス特有の建物の形状となってきまます。
設計者が自然をうまく家の中に取り込めるように設計することで、省エネにも繋がり、年中快適なパッシブハウス生活を送ることができるのです。
これまでに建築されたパッシブハウスの建築事例を元に、外観にどのような特徴があるのかをご紹介いたします。
また、すでにパッシブハウスで生活している方の実際の声や、パッシブハウスに関係した書籍も一緒にご紹介しますので、気になる方はぜひご覧ください。
この記事の目次
パッシブハウスの建築事例3選
日本にパッシブハウスを広める活動を行っている一般社団法人パッシブハウスジャパンでは、パッシブハウスを始め全国の優れた高性能住宅を表彰する「エコハウスアワード」というコンペを開催しています。
これまでに5度開催されていますが、ここでは2019年、2018年、2017年の最優秀賞を外観写真とともにご紹介いたします。
外観に特徴は何か、や共通点はどこか、を考えながらご覧ください。
2019年エコハウスアワード最優秀賞
昨年2019年にエコハウスアワード最優秀賞として受賞されたのは、福岡県にある空建築工房(そらけんちくこうぼう)代表取締役江藤眞理子さんによって設計されたPEA1901熊本パッシブハウスです。
この住宅の施主は、熊本地震により建築時期がずれてしまったものの、省エネ建築診断士というパッシブハウスジャパン主宰の資格を保時している奥様の希望で設計されたパッシブハウスになります。
西と南の隣地の建物の高さなどを考慮し、冬でも建物内に陽が入るように家の配置を決定しています。
反対に、1階南面の掃き出し窓と西面の窓と2階南面の掃き出し窓には雨戸や外付けブランドを取り付けて、夏場の強い日差しが室内に入ってこないように日射遮蔽するように設計されているのです。
この家を設計した空建築工房の江藤眞理子さんは、「外から戻ってきて「ホッとできる場所」「帰りたくなる場所」を目指し」、また自然の力を利用しながら住む人にも環境にも優しい住まい作りを行っています。
女性ならではの目線での家づくりが今回の最優秀賞受賞につながったのではないでしょうか。
2018年エコハウスアワード最優秀賞
2018年の受賞作品は香川の設計事務所プランリーブル株式会社の設計、株式会社パッシオパッシブ施工による丸亀パッシブハウスです。
株式会社パッシオパッシブでは下記の4つのコンセプトで家づくりに取り組んでいます。
・デザイナー×インテリアコーディネーター
・世界基準の家パッシブハウス
・木製サッシをつくる工務店
・街なみづくり企業
(https://passiop.com/design-human/より)
会社名でもわかるように、パッシブハウスを全面的に推奨した会社であると分かります。
そんなパッシオパッシブの受賞作品である丸亀パッシブハウス〜S様邸ですが、元々省エネルギー住宅への関心の強かったお施主様のS様が家づくりについて調べているうちにパッシブハウスに辿り着き、パッシオハウスへ家づくりを依頼したことが施工のきっかけとなりました。
S様は真冬に松山のパッシブハウスにも体験宿泊し、実際にパッシブハウスでの生活はどのようなものかを実際に感じ、パッシブハウスを建てることを決めたのです。
家での冷暖房の消費を示す年間冷暖房負荷は、数値が低いとエネルギー負荷が少なくなり、家の中の空気が外へ漏れにくく、また外からの空気も入りづらくなります。
四国は、特に冷房負荷がかかりやすく、エアコンの消費も高くなってしまいやすいです。
S様邸でも同じように冷房需負荷の面で設計に苦労しましたが、外付けブラインドを取り入れることでその部分もクリアすることができ、快適なパッシブハウスを実現できました。
S様の家づくりに対する熱心な姿勢と、晴天小雨の地域である香川でいかにして快適なパッシブハウスを設計するかを研究し設計したことでこの家が誕生したということでしょう。
2017年エコハウスアワード最優秀賞
2017年最優秀作品は岡山県倉敷市の倉敷木材株式会社の倉敷の家です。
台風も地震も比較的少なく、災害の少ない地域でもある岡山県ですが、近年では平成30年西日本豪雨などの災害にも見舞われ、災害への意識が県内で少しずつ広がってきています。
しかし、実は断熱意識に関してはとても意識が低いです。
ローコスト住宅や、有名なハウスメーカーなどに興味を示す方が多く、有名な家なら安心であるという意識が強い方が多いです。
そのため、断熱材など性能部分はコストを削りがちになり、夏暑くて冬寒い家に住んでいる方が非常に多い地域になります。
そんな中で、早い段階からパッシブハウスに目をつけて家づくりを行っている倉敷木材株式会社が2017年に最優秀賞を受賞し、2020年にもノミネート作品として取り上げられています。
倉敷の家に住むお施主様は倉敷木材の社員さんで、実際に家族で住んで快適さを体感しています。
パッシブハウスジャパンのホームページでは、この倉敷の家に住むお施主様の福本さんと奥様がインタビューに答えるコラムが載っているのでぜひご覧ください。(https://passivehouse-japan.org/ja/magazine/award2017_kurashiki/)
福本さんは実際に自分がパッシブハウスに住んでみることで、パッシブハウスの快適さが分かり、その後家を建てる方にはパッシブハウスしか薦めたくなくなったと言うほど、大満足な家をなったそうです。
この倉敷の家はパッシブハウスの仕様も意識していますが、コストも意識した作りとなっています。
全体的にもバランスのよいデザインにして、パッシブハウスとしての性能の良さとデザイン性をうまく両立させています。
建築事例から見るパッシブハウスの特徴的な外観
エコハウスアワードの最優秀作品は、パッシブハウスとしての性能に加え設計者の意匠も反映されているため、性能部分の特徴がどのようなものか少し分かりづらい面もあったかもしれません。
ここでパッシブハウスの外観の特徴を改めてご紹介いたします。
南面の大きな窓の理由は?
まずパッシブハウスの大きな特徴の1つは、南面の大きな窓です。
南面に大きな掃き出し窓を設けることで、陽の光を室内に取り込めます。
家の中が明るくなるのはもちろんですが、冬場は掃き出し窓から陽の光がはいることで室内を太陽光で温めることができるのです。
さらには、南面だけでなく家全ての窓を高性能な複層ガラスにすることで、温めた空気が外へ逃げないようにしっかりとブロックします。
そうすることで、常に家全体が魔法瓶のように保温状態になり、家全体が一定の温度に保たれます。
エアコンは、設定した温度まで室内を温めるまでの過程で最も電力を消費し、電気代がかかります。
パッシブハウスでは南面の大きな窓からの太陽という自然の暖房器具が、家を温め複層ガラスがその暖かい空気を保温することで、エアコンの消費電力が抑えられます。
家が快適になるだけでなく、家計にも優しい家ということですね。
各所に設置された庇の重要性
「大きな南面の窓で、冬は快適に過ごせることはわかったけど、逆に夏場は暑くて過ごしづらくなるのでは?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
その部分もパッシブハウスはしっかり考えて設計しています!
まず、夏と冬では太陽の高さが異なります。
夏は高い位置に太陽があり、冬は低い位置に太陽があります。
パッシブハウスではこの太陽の高さに目をつけました。
寒い冬は太陽の暖かい陽を取り入れ、逆に夏は太陽の暑い陽差しを遮るようにしなければならなりません。
そこで取り入れるのが「庇(ひさし)」です。
夏の太陽に陽差しは遮るように庇を出し、冬場の陽はうまく家の中に入るよう、ちょうど良い庇の出具合が調整されています。
庇の出具合は、パッシブハウスを建てる地域や周辺環境によっても異なるので、設計者は建築予定の地域の環境を考慮して検討し、プランを計画しています。
パッシブハウスが快適な理由は断熱材の厚さにあった!
庇や南面の窓にパッシブハウスの外観的な特徴があることはわかっていただけたのではないでしょうか。
ここでは、パッシブハウスの見えない部分の特徴をご紹介します。
それは「断熱材」です。
家が完成すると見えなくなってしまう断熱材ですが、家の性能に最も重要な役割を果たしています。
たとえ窓を高性能な複層ガラスを全て取り入れても断熱部分が隙間だらけだとその性能がうまく働きません。
断熱材の厚みは、パッシブハウスを建てる工務店などによって使用する断熱材が違う可能性もあるため、一概にはいえませんが、床下で200mm近くの断熱材、壁には140mm、屋根天井には300mm以上、さらには不可断熱や吹き付け断熱も採用して隙間という隙間を全て埋めていきます。
厚い断熱材を使うことで、外からの冷気や熱気の家への侵入をシャットアウトします。
また、高性能な断熱材を使うことで、窓や庇の性能も大いに発揮されるのです。
目に見えない断熱材の部分にお金をかけない方が多いですが、これから何十年も過ごす家を快適に過ごすにも断熱材にはしっかりとコストをかけることが大切でしょう。
パッシブハウスを建てた感想は?口コミを紹介
では、日本でこれまでにパッシブハウスを建築して今も住んでいる方の口コミをご紹介します。
これからパッシブハウスを検討されている方の参考になれば幸いです。
いばらきパッシブハウス 島田さん夫妻
「家の断熱と気密性が優れており、窓の外には遮熱できるルーバーを採用しているので外からの暑い熱が家の中に入ってこないようになっています。
そのため、家では6畳用のエアコンだけを稼働させていますが、夏は涼しくて快適に過ごしています。
逆に冬は、ルーバーを開けて窓から日射を取得して家の中を温めていますが、保温されすぎてお風呂上がりや朝起きた時には少し暑くて窓を開けてしまいたくなるほどです(笑)
子供も真冬でも裸足で過ごしています。
坪単価は80万円ほどで高いですが、パッシブハウスとしての機能が充実しているのでコストパフォーマンスが良いです。
イニシャルコストはかかりますが、他の家に移り住むなんて考えられないほど快適なのでとても満足しています。」
軽井沢パッシブハウス ケビンさん&いくえさん夫妻
「省エネ住宅を建てたいと思ってインターネットで調べていくうちに、スウェーデンのパッシブハウスに住むおばあちゃんにインタビューする話を見つけました。
外がマイナス20度なのに、家でエアコンを使うのは「時々」、「寒くなったらケーキを焼いてオーブンの熱で家をあっためます」と答えているのに驚きました。
パッシブハウスに興味があり、パッシブハウスジャパンの代表理事の森みわさんの事務所に問い合わせましたが、忙しくてなかなかアポが取れませんでしたが、何度も連絡してようやくお話しする機会をもらいました。
1年以上待つことになりましたが、森さんの事務所でパッシブハウスを建てることができました。
軽井沢は冬は夜マイナス15度、昼でもマイナス5度でかなり寒い地域ですが、暖房をかけてなくても朝すんなりと布団から出られます。
家の中の温度も一定に保たれているので、快適です。
泊まりにくる友達も驚いています。
電気代はほとんどを太陽光発電で賄っており、冬は薪ストーブで過ごしています。
住むだけでエコで快適で過ごしやすい家です。」
秩父市H様(高橋建築株式会社)
「子供ができてアパートが狭くなり、窓の結露でカーテンにカビが生えたり、夏の暑さに我慢できなくなったりと、生活の中で様々な部分での不満を感じだし、家を建てることを意識し始めました。
高橋建築さんは友人に紹介されましたが、パッシブハウスとオーナーさんの家を見せてもらい、見積もりのコスパの良さと社長さんの人柄の良さで決めました。
住み始めてみると、冬はとにかく暖かいです。
6畳用のエアコンをリビングでつけて、室内のドアを開けっぱなしにしておくと家の中全体が暖かくなります。
不思議ですが本当に快適です。
夏の電気代は月5,000円くらい、冬は6,000円くらいが平均です。
太陽光発電で月に20,000円もらえているので、コスパが本当に良くてびっくりしています。」
まとめ
パッシブハウスの外観の特徴は、家の中の快適さに直結しています。
また、その外観の性能の良さを最大限まで発揮しているのが見えない部分の断熱材です。
パッシブハウスは、窓や庇、そして断熱材の性能だけでなく、換気システムや通気性などもパッシブハウスに合った性能やプランを取り入れて設計施工されています。
住む人がパッシブハウスで快適に過ごせるようにという設計士、施工者の思いが詰まった家とも言えるのではないでしょうか。
健康で長生きしたい、家の中で快適な暮らしをしたいという方は、パッシブハウスがきっとピッタリです。