1981年に新耐震基準、2000年に性能規定制度等法改正もあって、木造住宅の耐震性能は確実に上がっており、耐震補強の有効性が確認されています。
大地震で倒壊した建物に隣接する建物が、無被害であるということも被災地ではよくあり、原因は耐震性能の差であることは明らかです。
熊本地震の調査では壁量が2000年基準の約2倍にしていた住宅はほぼ無傷であったという結果もあります。
耐震補強の必要性が強く感じられます。
「では既存建物をどのように耐震補強していけばよいのでしょうか?」
建物の部位別に耐震補強方法と注意点をまとめました。
この記事の目次
①木造建物の土台・柱脚部
木造建物は、腐朽や蟻害は地盤に近い部分が一番先に湿気を受けやすいため、劣化の進行が早まる部分です。
外周壁の劣化は木造住宅の耐久性、耐震性に大きく影響するので、まず外周壁の足元の劣化を修復・補強する必要があります。
外周壁の足元の壁を切ってはく離します。
そして、土台や柱などの劣化の有無や、アンカーボルトの配置を確認していきます。
ここで重要なのは、劣化部分は取り換える必要があることです。
いい加減な工事で再度耐震性の欠ける工事をされては困りますよね。
なので、工事業者が図面に劣化部分やアンカーボルトの配置、ブレース(筋違い)部分をきちんと記して依頼人に説明してくれているかをよく確認しましょう。
土台を接合しているはずのアンカーボルトにナットや座金が無いことも多く、アンカーボルトの配置も継手部、耐力壁(地震や風など横からの水平荷重に抵抗する能力を持つ、構造的に固定されている壁)の部位など本来必要な部位に無く、不明瞭な位置にある場合も少なくありません。
ですので、土台の劣化確認の際にはアンカーボルトの確認も必ず行ってもらいましょう。
土台や柱の劣化部分の取り換えには、木材もヒバやヒノキの芯持材などの耐久性の高い材料を使用することが望ましいでしょう。
耐震補強工事は、住みながらの工事が多いので、防腐剤を塗布する際も使用する薬剤に注意が必要です。
ヒバ油などを塗布するのがよいでしょう。
地震が起こると耐力壁の柱には引き抜きの力が働きます。
- 耐力壁の強度
- 配置
- アンカーボルト設置
- ブレースの確認
をして、補強工事を行わないと、引き抜き強度が不足してしまうことにもなります。
アンカーボルトが無い、または不足している場合には、アンカーボルトの補強をします。
釘打ちによる既存ブレースがある場合もML金物等でしっかりと固定しなければなりません。
引用元:有限会社 比留間工務店
②ブレース(筋違い)
地震の力に対応するブレースは、圧縮力と引っ張り力が働きます。
したがってブレースは「圧縮ブレース」と「引っ張りブレース」に分けられます。
圧縮ブレースの場合は、ブレースの厚さ30mm(幅90mm)以上が必要です。
圧縮の力が加わるとブレースがたわむ危険があるため、中間部分を間柱に接合する必要があります。
また、引っ張りブレースは、同様に引っ張り力を受け止めます。
厚さ30mm未満は引っ張りブレースです。
引っ張り力が加わった場合にはブレースの端部の接合が重要になります。
ブレースの端部の釘がが抜けないようにしなければなりません。
端部の接合が釘を斜め打ちして取り付けているものもありますが、端部が割れる原因になりますので、斜め打ちは避けなければなりません。
釘の打ち方でブレースの強度が変わってしまうことになりますので、業者の施工方法に左右されずにしっかりと固定してもらえるよう、金物による接合を希望しましょう。
補強の工事中はできるだけ足を運び、使用している木などもよく見ておきましょう。
引用元:住まいの殿堂
③壁
耐震補強には壁の補強が欠かせません。先述したブレースもその一つです。
実際にはブレースだけでは強度不足になる場合が多く、構造用合板等で抑える必要があります。
関連記事:【もう迷わない】強度を決める構造用合板の種類や価格、使い方を徹底解説
木造住宅で壁の補強を行う場合、構造用合板が使われ、この面材は土台から梁・胴差し(建物の胴体を固める横木)・桁(柱の上に横に渡して構造体を支える横架材)まで張りめぐらさなければなりません。
施工現場で釘が合板にめり込んでいないかどうかを十分に注意して見ましょう。
引用元:住宅検査 カノム
また、既存耐力壁に厚さ0,9mm・幅45mmのポリエステル繊維のテープを貼り、釘を増し打ちすることで、通常の増し打ち以上の大幅な耐力の向上を図るSRF工法もあります。
専用の接着剤で補強テープを貼ったものが、面材際の釘の貫通、引き裂きを防止して、激しい揺れで釘が曲がった場合でも、完全に引き抜けるまでの耐力と靭性を引き出します。
壁5枚分のSRF材料費用はおよそ43,000円くらいです(仕上げ材の撤去・施工費は除きます)。
施工のための特殊な工具や技能が必要ないので、幅広い現場で導入できます。
引用元:住まいの耐震専門サイト
④接合金物
建築基準法が改正された1981年以降に建てられていても、2000年基準以前の新耐震住宅は、なんと65%が接合部の施工が釘打ち程度の状態で耐力が低く、現行の基準を満たしていないという結果があります(日本木造住宅耐震補強事業者協同組合による)。
1981年以降の建物は2000年に近づくほど接合部の仕様に山形プレートなどが使われるケースが増えて、耐力が強くなっていますが、それでも現行の基準を満たしていない建物がほとんどであり、震度6強や震度7の地震が発生すれば、新耐震住宅でも2000年基準以前の住宅は倒壊する可能性が高いといいます。
現行の基準を満たしていない住宅は、早急に接合部を補強する必要があります。
補強方法の一つに、既存のブレースを利用して効率的な補強が可能な、ブレース補強壁ガーディアンシールドというものがあります。
- 既存のブレースに金物を取り付け補強する木製ブレース
- 壁フレームの中に金物とターンバックルを組み込んで補強する鋼製ブレース
こちらの2種類があります。
木製ブレースの柱頭・柱脚に取り付ける金物は、縦方向に長い金物で、ブレースを取り付ける金物の役割を果たします。
金物は仕口にビス留めで固定する仕様で、床や天井を解体せずに施工できるので、住みながらの工事が可能なのもとてもメリットが高いですね。
柱と横架材の軸組補強も可能なので、開口部でも使用できます。
材料費は、木製ブレースが13,500円、鋼製ブレースが25,000円くらいです。
ガーディアンシールド 鋼製ブレース
ガーディアンシールド 木製ブレース
引用元:株式会社丸二
⑤梁
木造住宅の上部の荷重を支えている部材は柱などの他に、梁があります。
2階の柱の下に柱が無い場合や、空間が広い場合など、梁を設けて上部の荷重を支えなければなりません。
柱は1,8m間隔を基本に設計し、これより長くなる場合には梁を入れます。
梁の断面寸法は、柱の間隔で決めますが、梁の断面が小さすぎると梁はたわんでしまいます。
たわみが大きくなると、梁の中央部分で割れを生じてしまいます(せん断クラック)。
また、いくらしっかりした梁を入れても両端部の接合が悪ければ梁がはずれてしまい、耐震性能はなくなってしまいます。
梁の両端部は羽子板金物等の金物によって接合する必要があります。
梁の継手部分は弱点部分なので、ここに負担がかからないように、木材を加工し、金物で接合し、補強します。
梁のたわみ量が多い場合は、下部に柱を入れて補強するか、梁を大きい断面の部材に取り替えなければなりません。
それも難しい場合には、梁の下に梁を入れて補強し、上下の梁が一体になるよう側面から構造用合板などを張って補強します。
下階の部屋の配置によって補強方法が変わってきます。
補強設計の段階で業者とよく検討し、邪魔な柱が増えたりと補強後の生活に影響が出ないようにすることが重要です。
また、地震等による建物の変形を防ぐ役割を果たす火打ち梁というものが梁などの隅に斜めに入っていることが多いです。
せっかく耐震を高めるはずの火打ち梁が、梁の継手部にあると、逆に火打ち梁が継手部を破壊する恐れがあります。
火打ち梁の位置を変えたり、継手部分の接合を補強金物等で補強する必要がありますので、梁の隅の接合部分をよく確認することが大事です。
引用元:住宅検査 カノム
⑥ふすまや障子を利用
ふすまや障子など、建具のある部分に、土台、柱に取り付けるプレートとFRP板を組み合わせた装置を組み込んで補強する工法があります。
柱が見える真壁造の建物にも使用できるほか、補強箇所を今まで通り建具として見せられるメリットがあります。
開口部の幅も変わらないので、部屋の雰囲気もそのままにできます。
施工は、床と敷居の2本のレールのうち1本を除去し、既存柱の側面に「Hプレート」、既存土台の上に「Dプレート」を固定します。
そして三角形のポリコンFRP板を各プレートに固定して完了です。
部材の厚さが14mmと薄いので、設置後は既存のふすまや障子を仕上げに利用できます。
解体材は再利用できますので、廃材も出にくいという、とても優れた工法です。
4~6か所の設置なら約3日で工事が完了します。
費用は業者により工事費は異なりますが、1か所あたりおよそ15万2,000円~16万5,000円ほどです(仕上げ込み、タイプによって異なります)。
引用元:東京都都市整備局PDF
⑦マンションの耐震補強
地震からマンション居住者を守るためには、まず耐震診断を行い、弱点があれば、耐震改修を行うことが重要です。
構造躯体の耐震上の弱点を解消するためには、強度と靭性を補強する必要があります。
- 建物の平面形状や断面形状が不整形である
- 耐震壁の配置バランスが悪い
- スパンが均等でない
など、偏心によるねじれ被害を受けやすい建物は、重心と剛心の位置が一致するように耐震壁をバランスよく配置する改修を行います。
- 既存壁の増し打ち
- 耐震壁の新設
- 鉄骨ブレース補強
などで耐震壁を形成します。下階がピロティや専有部分の床面積が大きい店舗などで剛性率が低い階が存在する建物は、各階の剛性バランスを検討し、
- 既存壁の増打ち
- 耐震壁の新設
- 鉄骨ブレースによる壁面の補強
- 柱への鋼板の巻き付け補強
- 柱や梁の炭素繊維シートによる補強
などの方法で、剛性を高めます。
また、中間階の強度が不足する場合は、開口部が多く壁量の少ないバルコニー側(長辺方向)を鉄骨フレームや鉄骨ブレースで補強することを検討します。
ご自身が住むマンションの構造がどうなっているのか、1Fが店舗になっていたり駐車場があったり吹き抜け空間があるかどうか、普段なかなか気にもとめない方が多いと思います。
ですが、大地震が起きた時にどんなに大きなマンションであっても構造的に弱い部分があれば、ねじれ破壊やピロティ部がつぶれるなどが起きるということを考える必要があります。
ですので、管理組合や会議に積極的に参加してまずは耐震診断をすることから初めてみましょう。
引用元:(株)日吉建設de毎日現場
⑧耐震補強の補助金
耐震診断、耐震補強設計、耐震補強工事を実施する際の補助金制度が、国およびほとんどの自治体にあります。
各自治体や建物の規模によって条件や金額は異なります。
大規模建物、病院やホテル、学校の他、一般の戸建て住宅についても補助金制度はあります。
旧耐震基準で建てられた、1981年5月31日までに建築確認を受けた木造住宅で、木造軸組み工法の2階建て以下の建物が補助金の対象になります。
まとめ
耐震補強は劣化部分の正確な把握がとても重要です。
特に木造住宅は外周壁の足元部分に集中していることが多いので、よく調査し、業者と確認の際にはアンカーボルトのチェックも同時に行いましょう。
木造軸組み工法は4m前後の木材を組み立てて接合していく工法なので、接合部は弱点といえます。
地震力にはブレースが重要な役割を担っていますが、接合部がしっかりしていなければ耐震性能はありません。
施工前の補強設計の段階から、どんな金物で接合するのか、塗料は安全なものなのか、気になる点は何でも相談し、施工中も現場へ足を運んで釘や金物、木など材料の状態をよくチェックし、写真を撮っておくと安心です。
劣化箇所は取り替えが必要な場合もありますが、既存のものを使用した補強ができる場合や、住みながら工事ができる方法もありますので、施工業者とよく検討してみましょう。