老朽化マンション・8つの対策

老朽化マンション・8つの対策

今、本格的なマンションの供給から半世紀が過ぎ、新しい改修の段階に入ってきました。

建築に関わる多くの企業が新築から改修へと大きく舵を切っています。

その間に起きた、阪神淡路大震災や東日本大震災も乗り越えて、マンションの耐震化はようやく加速が始まっています。

少子高齢化の勢いは老朽化したマンションや団地において大変深刻な問題であり、バリアフリー化も必須の要件となりました。

これまでのような大規模修繕工事だけでは実現が難しい課題ばかりです。

特に再生が難しいとされる分譲マンションにおいて、

  • 老朽化した建物をどのようにして再生していくことができるのか
  • どのような対策をしていけばよいのか

ということを、マンション購入時からしっかりと将来のことまで考えておきましょう。

①建て替えが難しいマンション

日本中が空き家だらけで、高齢者ばかりになり人が減ってきているにも関わらず、新しいマンションは次々につくられています。

まだまだマンションは人気が高いですね。

ですが、何も対策をとらずに経年した老朽化マンションは最後、どうなるでしょうか?

居住者がどんどん減り、管理組合が成り立たなくなり、管理が行き届かず不具合だらけの建物、そしてスラム化の一途をたどってしまいます。

これからの時代、マンションの再生を考えなければなりません。

マンションを建て替える場合、区分所有者の5分の4以上の賛成を得なければなりません。

しかし負担金を払えない等の理由で反対する人もいるため賛成多数で決議されるのも難しいのが現状です。

また、建て替えが決定し、賛成しなかったため売渡請求を受けた区分所有者は立ち退きをしてもらうことになりますが、これも簡単に立ち退いてもらえるわけではありません。

建て替えできず、取り壊す場合にもかなりの費用がかかり、建て替えた方が得となるケースもあります。

マンション再生の一番の方法は建て替えですが、建て替えることができたマンションはほんの少しであり、それもとてつもない時間がかかっています。

国土交通省の統計を見ても、平成31年4月時点ですでに建て替えが完了したマンションは今まで日本全体で実に244棟しかありません。

ここ数年を見ても1年間に4~6棟しか建て替えられていないのが現状です。

建て替えが成功したマンションは、立地が最高に良く、コミュニティーが非常に強く、事業協力者が共同体となって行政と交渉の末に成し遂げられています。

この条件が一つでも欠けていれば、建て替えは困難でしょう。

こうなると、ほとんどのマンション建て替えは早めにあきらめて、別のマンション再生を考えなくてはならないということがわかりますね。

②耐震性を確保

地震や津波、台風とともにずっと暮らしてきた私たち。

マンションに住むようになってまだ約50年ですので、自然災害への備えは発展途上です。

中でも耐震性の確保は老朽化マンションの最大の課題であり、マンション再生のスタートラインなのです。

世界の巨大な地震の2割が日本で起きているといわれ、ごく稀に発生する巨大地震でも建物を倒壊や崩壊させずに人命を守る基準が定められています。

旧耐震基準建物は構造上では既存不適格となって、耐震診断を受ける義務があり、必要に応じた耐震補強が早急な課題です。

適正な耐震診断を受けて、基準を満たす耐震補強を行うことが老朽化マンションの最優先の課題です。

耐震診断を行ったことで悪い結果が出て公表されると資産価値が損なわれるとして、耐震診断を行わないマンションも多くありました。

しかし、旧耐震基準のマンションは不動産売買では評価されず、耐震補強しなければうまく売れませんので、耐震補強は必須事項です。

③省エネ対策

地球全体の問題として省エネ対策は危急の課題ですが、残念ながら危機感はまだまだ薄いのが現状です。

マンション内での小さな積み重ねが求められています。

また、古いマンションには断熱性能の低いものが少なくありません。

北側居室の真冬の暖房はエアコンだけでは賄いきれないので、ストーブやヒーターが欠かせない地域も多いですよね。

ガラス面は結露によって常に濡れていて、窓枠には水が溢れるばかりに溜まってしまう住宅も多いと思います。

壁のビニールクロスは剥がれかけていても、黒カビが治まらないので貼り替える気にもなれないというご家庭も多いのではないでしょうか。

一方、真夏日のマンション最上階では天井や壁面からの輻射熱が容赦ありません。

エアコンをつけっぱなしにしても熱中症になりそうなくらい暑く、毎日の生活に支障をきたします。

マンション再生のためには、老朽化した窓サッシの改修に合わせて窓の断熱性を高めたり、屋上防水の改修時に外断熱仕様にしたりすることは標準的な措置として求められます。

屋上を緑化したり、高反射塗料を塗るなども効果的です。

その他、照明器具やエレベーター、給水ポンプなどマンション共用部には多くの電力を必要とする機器が設置されていますが、現在の製品は技術革新によって消費電力がかなり低減されています。

LED照明器具やインバーター制御のモーターなど、新しい省エネ機器に更新することが必要です。

④バリアフリー化する

高齢化が急速に進む中、厚生労働省は高齢者が住み慣れた地域で在宅での暮らしを継続できる社会の実現のため、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。

平均寿命80~90年の長い人生、老後の幸せな生き方や快適な住まい方と真剣に向き合う時代がきています。

85歳を超えると50%が要介護・要支援認定を受けており、75歳くらいから入院患者も急激に増えています。

定年後75歳くらいまでの元気なうちはまだまだ活躍し、その後見守りや手助けが必要になってきた時に、同居家族もいない高齢者を地域のコミュティによって協力して助け合うことで、住み慣れた家での生活を続けられれば、最後まで安心して暮らせるでしょう。

人がたくさん集まって住んでいるマンションは地域のふれあう場所になれます。

集会所や空き室を積極的に開放して、地域の拠点として人々を集め、さまざまなサービスを提供し合う、見守りや生活相談、緊急時の対応など支援していくことができます。

このようなことを実現していくためには、マンションの集会所の段差をなくして車いすで自由に出入りできるトイレを設置したり、エレベーターがない場合は設置が必要になってきます。

建物のまわりは歩行者が安全に歩ける歩道を設け、ベンチなど休める空間をつくるとよいですね。

古いマンションは、専有部分も脱衣・洗面所から浴室に入るところや、和室に入る敷居部分などが段差になっていて危ないつくりが多いですので、各住戸の中の段差も解消することが必要です。

高齢になっても安心して暮らせるマンションに再生しなければ老朽化マンションにはますます人が集まってこなくなってしまいます。

⑤設備配管の改修

設備配管の寿命は建物に比べて短い/span>ということはご存じでしょうか?

上水、下水道の給排水管は壁や床の中に通っていますので、隠れていて見えません。

これがとても恐ろしいことなのです。

亀裂や漏水など壊れてしまっていても確認できないため、大惨事になってから気付くということが老朽化マンションではよくあります。

異常な兆候が現れた時点ですでに相当被害は進行している状態なので、設備改修は予防保全することが大事です。

老朽化マンションは共用部の設備改修は管理組合によって実施済みであっても、専有部の住戸内は居住者が自ら動かない限り改修できません。

ユニットバスやキッチン、洗面化粧台などを交換するリフォームはしても、給排水管を更新するリフォームは少ないので、リフォームしたから新しい配管になったと思っていると、実は古いままの場合が多いということに注意しましょう。

⑥管理組合による大規模修繕工事

大規模修繕工事は一般的に、

  • 築10年程度の1回目⇒躯体と外壁仕上げ材の修繕
  • 2回目⇒躯体と外壁に加え屋根防水、給水設備など
  • 3回目の築25~35年頃⇒玄関ドアやアルミサッシの取り替え、排水管や電気設備の改修、エレベーター取り換え

などの工事が加わり、経年するごとに修繕項目が増えます。

きちんと大規模修繕が行われていれば、新築時と変わらない住宅性能が確保されることになります。

しかし、管理組合を構成している組合員の意識によって、マンションの未来が左右されることになります。

いつ建物の何に投資していくかを長い視点で見極めずに、一個人の生活者の視点で金銭面や住みながらの工事が大変などの理由から、建物の維持管理を最小限に抑えてしまうような管理組合だったらどうでしょうか。

するべき修繕工事をしなかったり先延ばしにしたりしているうちに老朽化マンションへの道をたどることになってしまいます。

そうなると、次に引き継ぐ区分所有者もいなくなり、マンションの末路は想像できますね。

マンション購入後も、管理を人任せにせず、常に関心を持って資料を読んだり会議に参加したりするとよいですね。

⑦大規模修繕以上、建て替え未満

大規模修繕は、住みながらの工事が大変なので居住者の無理のない範囲、

  • 騒音や溶接時などの火は最小限
  • 原則として共用部分のみ
  • 工事費は修繕積立金の範囲内
  • 建築確認申請が必要となるような工事は極力避ける

といった中でできることしか実施しない場合がほとんどです。

このような一般的な大規模修繕では建物が総合的にリニューアルされた状態になりにくいため、建て替えに匹敵するほどの価値が生み出せていない場合がほとんどです。

建て替え同等の品質を求めるならば、これからの時代は専有部分も含めた総合的な改修をし、必要に応じて全員一時移転して仮住まいをしたうえで効率の良い工事をしたり、法律に適合している建物かどうか必要に応じて建築確認を受けるなども行い、本質的にマンション再生を目指していく必要があります。

⑧部位別に要注意な現象を知ろう

バルコニー

大半の分譲マンションでは、共用部のバルコニーを管理規約で専用使用部分に指定してあります。

手すりや床排水の清掃は居住者に任されているので、日常の維持管理は居住者頼みということになります。

サッシや換気口、上げ裏の避難ハッチ周りなどの日常点検も居住者が行うしかありません。

コンクリートのひび割れを放置すると、漏水だけでなく、爆裂(コンクリート内の鉄筋が錆びて膨張し、割れたり欠けたりする現象)を招くこともあります。

また、エフロレッセンスといってコンクリートやモルタル内のアルカリ成分である炭酸カルシウムが水に溶けて表面に浮き出たものが発生している場合、水が内側に侵入している証拠ですので、すぐに修繕が必要です。

共用廊下、共用玄関、共用階段

マンションと戸建て住宅の最大の違いは「廊下や玄関、階段を共用していること」です。

なにげなく使っている共用部ですが、不具合や劣化の現象を放置すると、大地震などの非常時に壊れて修復できいくらいの損傷を招くこともあります。

他人事と思わず自分のこととして、この共用部分も日常の維持管理と安全の確保が欠かせません。

タイル目地の隙間やひび割れは放置すると床下に漏水します。

  • 天井照明などが点灯しない
  • 器具の固定不良
  • 避難誘導灯がまっすぐ設置されていない

など、不備が重なる場合は、維持管理がきちんとできていないという問題が明らかになります。

鉄筋コンクリート造の建物躯体と鉄骨階段の接合部は注目して確認したいポイントです。

モルタルにひび割れなどがあれば躯体内部に水が浸入して爆裂へと進行してしまいます。

住戸内

所有者や居住者にとって一番気になる部位ですね。

快適な生活に直結しますので、普段からしっかりチェックしておきたいものです。

  • 壁のクロスが切れている
  • ボードが割れたりしている

という場合は、表面のみでなく、内部の躯体がひび割れしている影響の場合もあります。

よく見極めて、わからない場合は業者に見てもらうなどしましょう。

屋上や上階バルコニーからの漏水は下階の天井に現れます。

天井は普段あまり見ないため気付きにくい場合が多いのですが、天井にシミなどができている時には注意が必要です。

玄関ドアの内側のドア枠周りは結露の危険が高く、放置すると早期劣化や開閉不良の原因になります。

  • 錆が生じている
  • 塗装が剥がれている

という場合は早めに修繕しましょう。

また、浴室前の床が劣化していたら躯体への漏水も考えられるため、早急に調査が必要です。

まとめ

マンション再生を実現させるには、長期的に考えれば若い世代の参加が必要不可欠になります。

自分の住むマンション、自分が所有するマンションのことを普段からよく知り、マンションの維持・管理に関心を持つ人が多ければ多いほど、自然とマンション再生が実現化していくものです。

少しずつ修繕・補修していくことで、マンションの寿命も長く伸びます。

自分の住戸内だけでなく、住棟、施設、設備、共用・共有空間にも関心を持って、傷み具合なども日頃からチェックしておくことが大切です。