バリアフリー住宅は、高齢者や身障者だけでなく幼児や怪我・病気をした時にも暮らしやすく安全な住宅です。
また、怪我・転倒の防止、生活のしやすさを感じることができる住宅です。
バリアフリー住宅の設計で必ず考えておきたい間取りの基本を解説します。
この記事の目次
バリアフリー住宅とは?
バリアフリー住宅は移動しやすく安全に生活を送れることに配慮して設計します。
バリアフリー住宅の設計に必要な考え方を
- 「設計の基本」
- 「生活のしやすさと安全」
- 「今必要なバリアフリーと将来必要なバリアフリー」
の3つにわけて解説します。
バリアフリー住宅の設計の基本
バリアフリー住宅の設計の基本は、
- 「床段差の解消」
- 「手摺の取付け」
- 「階段、廊下、出入り口の有効幅の確保」
- 「温熱環境の対応」
です。床段差の解消では、同一階では全ての床段差をなくすことを基本とします。
同一階にある部屋間、部屋と水回り(トイレ、洗面・脱衣室)の床段差をなくします。
(床段差の解消寸法:設計寸法3mm以下、施工寸法5mm以下)
浴室と脱衣室の床段差も少ないほうが生活しやすくなります。
畳コーナーや和室などの床に段差を設ける必要がある場合は9㎝以上の段差とし、素材や色を変えて段差をはっきり認識できるようにし、つまづきによる転倒が起こりにくいように配慮します。
(住宅性能評価:高齢者等配慮対策においてバリアフリー住宅の床段差解消は、高齢者等が主に使用する日常生活空間は床段差のない構造とします。
それ以外の部分は段差が認識しやすい高さとして9㎝以上の段差とすることが明記されています)
手摺は、転倒しやすい場所や立ち上がり・移動をする場所に必要なため、
- トイレ
- 浴室
- 玄関の上がり框上
- 廊下
- 階段
に取付けます。階段や廊下、出入り口の有効幅は一定寸法を確保します。
階段の有効幅は75㎝以上、廊下の有効幅は、78㎝以上(柱部分は75㎝以上)です。(手摺を除いた寸法)
居室出入口の有効幅は75㎝以上、水回り出入口は60㎝以上確保します。
温熱環境の対応は住宅内の温度差をなくすために行います。
冬の部分暖房によりリビングや寝室が暖かく、浴室やトイレが寒い場合に起こるヒートショックはとても危険です。
また、高齢になると暑さ、寒さを感じにくくなり、気づかずに熱中症になったり、低温やけどをしたり危険です。赤ちゃんの場合は、暑さ、寒さを訴えることができません。
水回りだけでなく住宅全体の温度や湿度を安全、快適な状態に保つことができるように、冷暖房設備を設置して、暑さ寒さをコントロールできる住宅にします。
バリアフリー住宅の生活のしやすさと安全
生活しやすい住宅は動きやすく移動する際の障害が少ない住宅で、かつ介護を必要とする家庭では介護者が介護しやすい住宅になります。
介護者が介護しやすい住宅は介護に必要な広さを寝室や水回りに確保された住宅です。
寝室では広さが12㎡以上、ベッド回りに介護のためのスペースや車いすが回転できるスペースを確保します。
トイレでは、トイレ介助をするために洋便器前方に50㎝の寸法を確保するか、便器サイドに介助スペースが確保できるようにトイレ内の有効寸法を広くするようにします。
安全に生活できる住宅は、床段差がなく、手摺などの移動補助設備があり、移動するときの障害となる幅の狭い通路や出入口のない住宅です。
高齢者や幼児、怪我や病気の時でも一人で安全に移動できる住宅です。
今必要なバリアフリーと将来必要なバリアフリー
バリアフリー住宅は高齢になることを前提に設計する必要があります。
しかし、すべてを取り入れて設計、建築すると費用がかかり、今必要のない設備を設置して過剰設備となってしまうケースがあります。
建築費用や現在の身体状況を考えながら今必要なバリアフリーを取り入れ、将来必要なバリアフリーはリフォームしやすいようにしておくと、満足度の高いバリアフリー住宅となります。
将来のバリアフリーのためにしておきたいこと
- 手摺や設備を取付けるために必要な下地をあらかじめ、壁や天井に施工しておく
- 電気が必要な設備を設置するためにコンセントを設置しておく
- 将来、部屋を広くできるように壁を簡易仕切りにしたり、建具で部屋を仕切るようにしておく。
- 車から玄関に出入りしやすいように、駐車場を玄関の近くにつくることができるようにアプローチを広くしておく
これらの要望は、将来的なことを踏めての計画になるので、バリアフリー計画、将来計画を設計者に明確に伝えてください。
バリアフリー住宅設計:場所別間取りの基本
バリアフリー住宅の設計で玄関や居室、廊下、階段、水回り別に考えておきたいことをまとめました。
玄関で考えておきたい3つのこと
玄関では、
- 「玄関建具の形状」
- 「段差」
- 「必要な設備と内装の注意点」
を考えます。玄関建具の形状は開きドア、引違い戸、片引き戸があります。
玄関やポーチの広さを考慮しながら、出入り口の有効幅と開閉しやすさ、出入りのしやすさを考えて選びます。
引違い戸と片引き戸は開閉する時によける必要がなく出入りしやすい建具です。
しかし、引手を操作しやすいレバータイプにすると出入口の有効幅が開きドアより狭くなるため、有効幅の確認が必要です。玄関入口の有効幅は75㎝以上必要です。
玄関・ポーチ回りは床段差の多い部分です。道路から敷地内に入りポーチに行くまで距離があればスロープを推奨します。
高齢者の歩行器や車いすだけでなく、ベビーカーも玄関までスムーズに持ってくることができるからです。
玄関建具の段差は、内玄関と玄関ドアの段差は5mm以下、玄関建具沓摺とポーチの段差は20mm以内の製品がバリアフリー商品です。寸法を確認するようにしましょう。
玄関から室内ホールに上がる上がり框の段差は180mm以内とします。
玄関に必要な設備は、「手摺」と「ベンチ又は椅子」です。靴を脱いであがる玄関先では、ベンチや椅子に座って靴を脱ぎ、手摺につかまって移動すると安全です。
玄関の内装は濡れても滑りにくい床、玄関が明るくなる色を選びましょう。
段差のある部分では段差がはっきり認識できる色を選び、安易に転倒をしないように配慮しましょう。
廊下の注意点
廊下では、
- 「有効幅と形状」
- 「手摺」
を考えます。廊下で必要な有効幅は78㎝以上必要です。標準的な体格や車椅子の一般的な寸法、住宅の一般的構造により算出された指針寸法です。
設計する時には、実際に暮らす家族の体格や使用する器具の寸法を確認し、本当に必要な有効幅を検討するようにしましょう。
廊下の形状も重要です。有効幅が十分とれている廊下でもコーナー部分の多い廊下は移動しにくくなります。
トイレに行くときに廊下を2回以上曲がらないといけない場合、歩行器や車椅子での移動はとても大変です。
廊下はシンプルな形状で短いことが理想です。リビングや寝室からの動線を確認しましょう。
廊下の手摺は、廊下の距離が長い場合や手摺があれば住宅内の移動が楽になる家族がいる場合につけておくと良いでしょう。
今必要がない場合は将来取り付けできるように床から60~90㎝の間に手摺を取り付けるための壁下地をいれておきましょう。
昇降しやすい安全な階段
階段では、
- 「昇降しやすい形状」
- 「手摺」
について考えます。階段の形状には、直線型・L型・回り(2曲がり)があります。
コーナー部分が多いほど昇降しづらくなるので回り階段以外の階段形状にするとよいでしょう。
直線型は階段を踏み外した時に階下まで落下する危険があります。階段を緩やかにし段板の奥行を確保し踏み外ししにくい階段にしましょう。
L型の階段はコーナー部分が階下になるようにし、階段を踏み外した時でも一番下まで落下することがないようにしましょう。
コーナー部分は内側の段板の奥行が狭くなるので、手摺を外側に取り付け踏み外しの防止をしましょう。
昇降しやすい勾配は、段板の踏面が広く、蹴上が低い階段です。
建築基準法では蹴上23㎝以下、踏面15㎝以上という規定がありますが、この階段はバリアフリー住宅では急な階段になります。
住宅性能表示制度(高齢者等への配慮)4等級以上の場合、蹴上18㎝以下、踏面21㎝以上が規定されています。
昇降しやすい階段は、体格や年齢により差異があります。体験して決めると良いでしょう。
階段手摺は建築基準法で設置が義務付けられています。取付ける位置は降りる時の利き手側に連続して取り付けます。
途中で途切れている手摺では、服をひっかけて転倒する場合があるので注意しましょう。
出入口建具の注意点と有効幅
居室やトイレなどの水回りの建具は、使い勝手や広さを考慮しながら、建具の種類や勝手(どちら開きか)を選びます。
ドアの場合、居室は室内側にドアが開くようにします。廊下側に開いた時廊下にいる人ドアがあたらないようにする、ドアを解放しておくことができるようにするためです。
居室側に開いても開放できない、廊下を通るときに邪魔になる場合は引き戸を選びます。
トイレのドアは外開きとします。中で人が倒れた場合、内開きではドアが開けられず救助に時間がかかるからです。鍵は外からも解錠できるタイプにします。
引き戸は常時開けておくことができ建具が邪魔にならないので、使い勝手の良い建具です。
しかし、建具を引くスペースが必要で、構造上必要な壁が少なくなるというデメリットがあるので、間取り全体のバランスを考えながら使用しましょう。
バリアフリートイレで大事なこと
トイレは毎日何回も使用する場所です。ストレスなく安全に使用できることが大事です。
トイレの広さは、畳1帖分がよくある広さです。高齢者の介護や子供のトイレトレーニングには少し狭い広さです。
可能ならば、幅30センチぐらい広く作っておくと、収納や手洗いを作ることもできて便利です。
バリアフリートイレで必要な設備は、主に
- 「手摺」
- 「手洗い」
- 「暖房」
です。高齢になると、立ち上がることが大変になってきます。
また、足が不自由な時や病気の時は手摺があると、一人で安全にトイレにいけるので安心です。
手洗いは、水洗トイレのタンク上にあるよりも、振り返らずに手洗いできる位置にあったほうが安全です。
間取りを考える時に、手洗いを取付けできる位置がないか検討しましょう。
暖房設備は、ヒートショックを防止するためにつけます。壁埋込みのヒーターや天井に設置する小型暖房設備などがあります。
または、温風器を置くスペースがあればコンセントを付けておくと良いでしょう。
お風呂と脱衣室の安全
バリアフリー住宅の脱衣室とお風呂は、
- 「床」
- 「出入口」
- 「手摺とベンチ」
- 「暖房」
を考えます。床は水に濡れする場所なので、滑りにくいものを選びます。
お風呂と脱衣室の間は床に段差があるケースがよくありますが、床の段差をなくすのがベストです。
浴室の開きドアの場合は樹脂ガラスを使用し、浴室内で人が倒れた場合すぐに救助できるようにしておきます。
引き戸の場合は、引く場所には手摺の取り付けができないので浴室全体のことを考えて建具を選ぶようにしましょう。
脱衣室と浴室は寒い場所で服を脱ぐので、ヒートショックを防止のため暖房設備を設置しましょう。
浴室の換気乾燥暖房機は、換気・乾燥・暖房が可能で取り入れやすい暖房設備です。脱衣室では小型暖房機を使用する方法があります。
手摺は立ち上がる場所、移動するときにつかまる場所に取付けます。
脱衣室では座って着替えができるようにベンチや椅子を置くスペースを作るようにしましょう。
各部屋と水回りの配置
高齢になると、トイレが頻繁になります。トイレは寝室に近くかつリビングからも比較的近い場所が便利です。
間取りに余裕があれば高齢者や身障者の寝室に隣接して専用トイレを作ると、毎日の生活や介護が楽になります。
高齢者や身障者の場合、浴室と脱衣室を入浴以外でも使用するようになるので、トイレ、脱衣室、浴室が隣接して配置されていると介護しやすくなります。
バリアフリー住宅の寸法の基準と決め方
一般的な寸法は住宅性能表示制度で指針が示されています。
しかし、手摺の高さや廊下・入口の有効寸法、居室や水回りの広さは暮らす人の体格や感覚によって変わります。
指針寸法を理解しつつ、実際の寸法を決めると良いでしょう。
バリアフリー住宅の設計では、間取りの基本をおさえつつ、家族の状態や経済状況を考えながら、将来のバリアフリーをみすえて設計することが大事です。
今の生活、これからの生活をシュミレーションしながら、快適なバリアフリー住宅を設計しましょう。
※1 寸法は住宅性能表示制度による
住宅性能表示制度:「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づいた制度。
「高齢者等への配慮」という項目があり、高齢者や障害者が暮らしやすいバリアフリーの程度が段階評価されます。
評価するために寸法の規定が決められています。